「それからどうなったの」
奈菜がペペロンチーノスパゲティの食べ終わった皿をちょっとテーブルの横に置き口をナプキンで拭きながら聞いた。奈菜は食べるのがわりと速い。
今夜、奈菜と流ちゃんと一緒に『アミーゴ』に食事に来ていて、赤ワインやパスタやピザなどを注文し、まず最初にテーブルにワインが運ばれてきた時、ついにわたしはどうやら孝一さんが好きなんじゃないかと思うんだと奈菜に告げた。流ちゃんには先日の『プルート』で、もうばればれだった。奈菜に『プルート』で孝一さんに会ったことを話した。
「どうもならないよ」
わたしはまだ牡蠣とほうれん草のスパゲティを食べている。
奈菜は赤ワインを一口飲んで
「なんでよ、ね」
と言って流ちゃんを見た。流ちゃんは奈菜の隣に座っていた。彼はラザニアを食べていた。サラダをフォークでつつきながら流ちゃんは奈菜に言った。
「馬鹿だろ。こいつ。俺が店に戻ったらさ、何もないように、しらってしてさ、カウンターで飲んでんの。そいつが横にいるのに話しかけもしないしさ、俺がさ、そいつに」
「そいつじゃないよ。孝一さんだよ」
とわたしもワインを飲んだ。
「はいはい。孝一にさ、よく来るんですかとか聞いてさ」
「あ、そうだったね」
とわたし。
「あ、これ、うまいな。鯛かな、入ってんな」
「おいしいよね、このサラダ。あたしも好き」
と奈菜も言い、来たばかりのコンビーフとアスパラのピザを一切れ、皿からとって自分のとり皿に入れた。
「で、どうなったって」
奈菜がピザにかぶりついた。「あ、熱っ」と言って慌てて皿に置いた。
「だからさ、どうにもなんないの。普通に話しただけ」
わたしはまた言った。流ちゃんが続けた。
「孝一がさ、俺に、あまり来ないんだけど今日は他の連中と飲んでて二次会で来たって言ってさ。孝一が一緒にどう?って聞いたのに、こいつ断ってんの」
「だって、他の人達と一緒だったじゃない?きっと市役所の人達だよ。悪いじゃない。部外者がさ。しかも酒屋のわたしが」
「引っ込み思案だからな、エリカは。描く絵とは大違いだな。俺は思うに心の奥にあるものをどうやら描いてんだな。こう、なんていうか、お前のパッションだな。あれは」
「分析すんのやめてくんない?描きたいもの描けって言ったじゃん。描きたいもの描いてるだけよ」
つっけんどんに言ってわたしは再び赤ワインを飲んだ。今夜はやけに飲みたい気分だ。奈菜がようやくピザを食べていた。
「エリカの絵、あたし好きよ。とても綺麗だと思うってことしかあたしにはわかんないけど」
「ありがと」
「当たって砕けろだからさ、告白ってのも必要だよ。いい大人が彼氏の一人もいないなんて寂しいじゃんか、ね、奈菜さん」
と流ちゃんもピザを口に入れながら言った。全く流ちゃんは……。人のことだと思って。あんたは恋人がいすぎなのよ。
「そうねえ。いないよりはいたほうがいいわね。確かに」
「奈菜さんはうまくいってんの」
「うふふ。まあね」
奈菜が照れながらにっこり笑ってワインを飲んだ。奈菜って綺麗だなあ。
「あ、わたしだけ?恋人いないの。こん中で」
と少し酔ったわたしが大きな声で言った。
二人が「そうじゃん」「そうね」と同時に言ったのでちょっと、しゃくだった。
『アミーゴ』の店員の久美ちゃんが水を持ってきながら
「エリカさん、あたしもいないから」
と笑って言い、わたし達のグラスに水をついでくれた。
いいんだ。わたし。いつか出て行くんだから。恋人なんか必要ないの。またそう思いながらワインを飲んでピザを食べた。いつもそう思っているのでいつもその言葉に励まされるのだ。まるでその言葉はわたしの呪文のよう。馬鹿だよね。また思っている。馬鹿だな。堂々めぐりのこの気持ちはいったいどこまで続くんだろう。
April 29 2009
to be continued